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    糖尿病性サルコペニアと自食作用アポトーシス関連性

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    今回紹介するのは、2型糖尿病(T2DM)に伴う筋萎縮(サルコペニア)の分子基盤を、TMTベースのLC–MS/MSプロテオミクスで解析したラット研究です。雄性Sprague Dawleyラット12匹を対照群とT2DM群(各n=6)に分け、ストレプトゾトシン40 mg/kg腹腔内投与と高脂肪・高糖食でT2DMモデルを作製し、6カ月後に腓腹筋を採取。HE染色とTMT定量プロテオミクスにより全体像を捉え、オートファジーやアポトーシス関連タンパク質の発現は免疫組織化学、ウエスタンブロット、qRT-PCRで検証しています。

    結果として、T2DM群の腓腹筋は横断面積の減少、細胞間隙の拡大、出血や炎症性浸潤など萎縮所見を示し、萎縮関連因子MAFbxとUbe2bは免疫染色で有意に上昇(P<0.001)。プロテオミクスでは差次的発現タンパク質を273種(上方133、下方140)同定し、KEGG解析でオートファジーやアポトーシスを含む94経路への関与が示されました。さらにp62、Bax、Caspase-3といった経路の鍵分子の発現変化が腓腹筋で確認され、糖尿病性サルコペニアがオートファジーおよびアポトーシスの制御異常と関連することを支持します。本研究は、T2DM誘発性筋障害の候補バイオマーカーを提示し、病態機序解明に資する基盤データを提供しています。

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    ラクトバチルスクリスパタスの抗菌と心血管代謝機能

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    今回紹介するのは、インド人女性の生殖路マイクロバイオータから分離されたLactobacillus crispatusの抗菌機能と代謝機能、さらに肝・心代謝疾患への保護的役割を多角的に追究した研究です。60株の中からゲノムマイニングに基づいて選抜した3株について完全ゲノム配列を取得し、抗菌ペプチド(バクテリオシン)産生、乳酸生成、短鎖脂肪酸合成、生体アミン産生といった生合成経路を描出しました。抗菌活性は寒天ウエル拡散法とタイムキルアッセイで、消化管環境への適応性は強酸(pH 2)および胆汁塩(0.3%)耐性試験で評価し、さらに高脂肪食誘導の前臨床マウスモデルで抗脂肪肝作用と心代謝保護効果の可能性を検討しています。

    主な結果として、3株の完全ゲノムからは複数の抗菌ペプチド生合成クラスターが見出され、未報告のバクテリオシン関連遺伝子座も含まれていました。代謝プロファイリングでは胆汁酸代謝、葉酸生合成、短鎖脂肪酸産生に関わる経路が同定され、無細胞培養上清はEscherichia coli、Enterobacter hormaechei、Staphylococcus aureus、Staphylococcus haemolyticusに対して広域の抗菌活性を示しました。加えて、pH 2および0.3%胆汁塩に耐える性質は経口投与可能性を示唆します。これらの所見は、L. crispatusが粘膜恒常性の維持と病原体排除に加え、代謝面でも有用な機能を備えることを分子的に裏づけるものであり、今後のプロバイオティクス開発や心代謝リスク低減への応用検討に資する基盤データといえます。

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    グリコペプチドPRM自動定量解析

    今回紹介するのは、PRM(parallel reaction monitoring)に特化してグリコペプチドの同定と定量を自動化するPythonベースの解析基盤「GlypPRM」です。糖鎖修飾は多様性と構造複雑性が高く、従来ソフトではグリコペプチド特有のフラグメンテーションや糖鎖モデル化、スペクトル解釈が十分に扱えず、PRMのデータ解析は手作業に頼りがちでした。PRMはターゲット前駆体に対するフルMS/MS取得によりS/Nと構造確信度を高められる一方、その利点を活かすためには糖鎖・ペプチド双方に配慮した解析ロジックが不可欠でした。

    GlypPRMは組成ベースの糖鎖構造モデル化により理論フラグメントを生成し、スペクトルマッチング、クロマトグラフィー統合、定量までを一体化してN-型・O-型グリコペプチドのPRMデータを自動解析します。ウシフェツイン由来グリコペプチドとヒト血清サンプルで検証され、高い構造精度、再現性、解釈性を示しました。加えて、可視化、柔軟な入力、イオンフィルタリング、出版向け出力にも対応。スケーラブルで糖鎖・ペプチド認識型のこのプラットフォームは、PRMベースの高信頼グリコプロテオミクスを下支えし、バイオマーカー探索や疾患研究の加速に資する基盤を提供します。

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    ヒトプロテオームのアルギニン反応性と結合可能性

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    今回紹介するのは、ヒトプロテオーム全体を対象にアルギニン残基の反応性とリガンダビリティを体系的に可視化した研究です。タイトルが示す通り、アルギニンという特定アミノ酸に焦点を当て、どの部位がどの程度反応しやすく、どの程度小分子で狙えるかをグローバルにプロファイリングしています。網羅的な実験測定と定量解析により、タンパク質中のアルギニン部位を広くスクリーニングし、反応性の差異と配位可能性を一体的に評価した点が特徴です。

    主結果として、ヒトプロテオームにおけるアルギニンの反応性ランドスケープと、リガンダブルな部位の分布が明らかにされ、今後の部位選択的な分子設計や化学生物学的介入の指針となる包括的リソースが提示されています。これにより、これまで標的化が難しかったアルギニン残基に対しても、選択的結合の可能性を見極めるための基盤情報が整備され、創薬や機能改変研究の新たな入り口を提供します。今回はMS機種名やLCメソッド、Evosepの使用有無は明らかにされていませんが、プロテオーム規模での高精度な測定に裏打ちされたデータセットとしての価値が強調されます。

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    高齢マウス膵ベータ細胞機能不全

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    今回紹介するのは、加齢に伴う膵β細胞機能不全の機序を、統合プロテオミクスとメタボロミクスで解明しようとしたマウス研究です。若齢群4匹と高齢群4匹で膵島機能指標を測定し、膵臓中の内因性タンパク質と代謝物をLC-MS/MSベースのプロテオーム解析・メタボローム解析で網羅的に同定・定量、統合データ解析を行っています(MS機種やLC条件の詳細は抄録に記載なし)。

    結果として、高齢マウスでは空腹時血糖とHOMA-IRが上昇し、HOMA-βは低下しました。プロテオミクスでは3,795タンパク質を定量し、そのうち57が上昇、50が低下、メタボロミクスでは46が上昇、19が低下と判定されました。統合解析からは、アルギニン生合成やペントースリン酸経路を含む6つの有意な経路が関与し、特にアルギニン生合成関連のアスパラギン酸とグルタミンが加齢表現型および膵島機能と関連することが示唆されました。これらの所見は、高齢マウス膵臓でタンパク質と代謝物の同時的な乱れが生じること、ならびにアスパラギン酸とグルタミンが加齢関連膵機能障害のバイオマーカー/治療標的候補となり得ることを示しています。

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    ヒト脳組織保存法のプロテオミクス比較

    今回紹介するのは、人脳組織の保存法がプロテオーム解析に及ぼす影響を検証した研究です。大脳皮質と海馬由来のヒト組織(n=6)を対象に、逆相LC-高分解能質量分析(LC-HRMS)によるデータ非依存型取得(DIA)で、ホルマリン固定、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)、凍結保存を比較し、FFPE専用抽出キット(n=4)も評価しました。ホルマリン固定のプロファイルは、FFPEやFFPEキットよりも凍結保存に近く、一方で主成分解析ではFFPEとの高い相関とオーバーラップも示されました。全手法を通じて一貫して検出されたコアタンパク質は1753種類に上り、凍結保存でのみ検出された35種類にも機能的な濃縮は見られませんでした。

    定量比較では、凍結保存プロテオームに対して、固定組織では細胞プロセス、エネルギー代謝、シグナル伝達、輸送に関わる経路が相対的に過小評価され、その偏りはタンパク質の長さ、局在、疎水性といった性質に関連していました。一方で、神経発生やファゴソーム関連経路は固定組織で過剰に表れました。さらに、ホルマリン固定試料を用いたアルツハイマー病のパイロット比較(Braak 0–II: n=4、IV–VI: n=4)では、ヌクレオソーム関連タンパク質やCarboxypeptidase M(CPM)を中心とする12の候補バイオマーカーを特定。これらの結果は、ホルマリン固定脳組織が信頼できるプロテオミクス情報を提供し、神経変性疾患研究にとって有用な資源となり得ることを示しています。

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    競走馬運動特異的血漿プロテオーム

    今回紹介するのは、競走馬のトレーニング適応とピーク負荷を血漿プロテオームから読み解こうとした縦断研究です。アラブおよびサラブレッド計49頭を対象に、初期トレーニング(T1)、シーズン中のコンディショニング(T2)、レース期(R)の各フェーズで、安静時・運動直後・回復後の血漿を採取し、合計314検体をTMT(tandem mass tag)定量とOrbitrap質量分析で解析しました。多重検定補正(q<0.05)で有意な変動蛋白を抽出し、STRINGやShinyGOで経路解析を実施。LC法の詳細は抄録に明記されておらず、Evosep使用の記載もありません。

    結果として、フェーズ依存の明確なプロテオーム応答が示されました。T1では炎症(S100A8/A9)、抗酸化(SOD1、カタラーゼ)、代謝(G6PD、PGK1)の広範な活性化が見られ、T2ではデコリンやチモシンβ4、グルタチオンS-トランスフェラーゼなどリモデリングとレドックス調節に収れん。レース期Rではエネルギー代謝、酸化防御、細胞骨格適応に関わる100種超のタンパク質が上昇し、最も強い応答を示しました。S100A8、チモシンβ4、プロチモシンα、コフィリン1、リポカリン群などは各期を通じて一貫して変動し、トレーニング状態やピーク負荷の指標候補として有望です。品種バランスや追跡採血の欠損といった限界はあるものの、標的アッセイによる大規模検証が進めば、運動適応・疲労管理の新規バイオマーカー群として競走馬のコンディショニングに資する可能性が示されました。

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    タンデム質量分析可視化統合ツール

    今回紹介するのは、PatternLab for Proteomicsに追加されたインタラクティブ拡張「Spectral Cruncher」です。手作業のキュレーションと計算解析をつなぐ可視化ツールとして、de novoシーケンスタグ抽出、自動スペクトル注釈、ターゲットタグ検索に加え、トランスフォーマー型のフラグメントイオン強度予測器SpecFormerを統合し、装置特異的にインタラクティブ表示します。SpecFormerは複数データセットで学習され、Q‑Exactive+のバルク、Astralのバルク、およびAstralのシングルセル向けに独立モデルを用意し、スパースなフラグメンテーションや低S/N下でも強度を精度高く予測します(LCメソッドやEvosep使用の記載はありません)。

    検証では、平均コサイン類似度がQ‑Exactive+バルクで約0.98、Astralバルクで0.91、Astralシングルセルで0.87と高い予測性能を示しました。これにより、曖昧なMS/MSスペクトルの精査やペプチド同定の検証、アルゴリズムの限界把握が容易になり、PatternLab 5.1に無償で組み込まれた統合GUIは、専門家主導の対話型ワークフローの普及と学習環境の提供に貢献します。

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    単一細胞プロテオミクス用界面活性剤ワンポット法

    今回紹介するのは、単一細胞プロテオミクスのための改良型ワンポット前処理法「iSOP(improved Surfactant-assisted One-Pot)」です。従来のSCPはサブμL〜1 μLの極小体積での処理を要し、専用デバイスや384ウェルでの頻繁な加水が必要になるなど、アクセス性と頑健性が課題でした。iSOPは既報のSOP法を基盤に、PCRチューブや96ウェルを低容量対応の384ウェルプレートへ置き換え、厳密なシールで乾燥ロスを抑制。系統的最適化により、処理体積は3 μL、酵素はトリプシン2 ngとLys-C 2 ngの混合を採用しています。

    一般的に入手可能なLC-MSプラットフォームで、iSOP-MSは単一のHeLaやMCF7から約1,200〜1,800のタンパク質群を検出・定量。さらに神経芽細胞腫由来のBE2-Cでは平均約1,700、SK-N-SHでは約2,050を同定し、細胞型間および同一細胞型内の不均一性を精密に描出しました。特殊な超微小液量装置を用いずに384ウェルで低μL処理を頑健に実施できる点が特徴で、日常的かつコスト効率の高い定量SCPを実現する、利便性と再現性に優れた手法といえます。

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    椎間板変性MRS脂質信号腰痛指標

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    今回紹介するのは、椎間板変性における患者申告症状と臨床MRS(磁気共鳴スペクトロスコピー)所見を結びつけ、さらにその病態機序をマルチオミクスで追究した研究です。MRSのスペクトルで脂質ピークが優位な群(pLP)と非pLP群に患者を層別化し、術前の痛み・機能障害スコアを比較。並行して、摘出した髄核細胞に対してリピドミクス、プロテオミクス、および機能実験を実施し、症状、IL-17陽性細胞、脂質量の関係を相関解析(Pearson)と重回帰で評価しています。

    結果として、pLP群は非pLP群に比べて術前VAS-腰背部痛(6.5 vs 4.7)とODI(63.3% vs 51.2%)が有意に高く、マルチオミクス解析から髄核細胞での脂質滴蓄積とIL-17炎症経路の活性化が特徴づけられました。VASとODIはIL-17発現(r=0.555/0.566、いずれもp<0.001)および相対的脂質量(r=0.567/0.561、いずれもp<0.001)と正に相関し、重回帰ではIL-17陽性細胞率と相対的トリグリセリド量が腰背部痛に独立に関連(p=0.021、p=0.046)しました。これらは、MRSの脂質ピークが症状重症度と結びつく潜在的バイオマーカーとなり得ること、そして脂質滴—IL-17炎症軸が慢性腰痛の形成・増悪に寄与することを示唆します。

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