今回紹介するのは、Meretrix lyrataの閉殻筋、足、サイフォンの3組織を対象に、茹で時間の進行に伴うタンパク質の構造・コンフォメーション変化を多角的に追跡した研究です。データ非依存型取得(DIA)による定量プロテオミクスで6つの時間比較群(20–0、40–20、60–40、80–60、100–80、120–100秒)を解析し、計6527タンパク質を同定、差次的発現タンパク質(DEP)のGO解析から生物学的制御や代謝プロセスへの関与が示されました。プロテオミクスに加え、濁度、粒径分布、ゼータ電位測定、そしてFT-IRを組み合わせることで、加熱に伴う分子間相互作用や二次構造の変化を系統的に評価しています。
主結果として、ミオシン重鎖、パラミオシン、アクチンといった筋原線維タンパク質は組織特異的な発現パターンを示し、加熱が進むほど17 kDa未満の低分子断片が出現しました。濁度は閉殻筋とサイフォンで60秒、足で80秒にピークに達し、粒径分布は100–1000 nmへと狭まり、ゼータ電位は低下してタンパク質表面電荷の減少が示唆されました。FT-IRでは水素結合の攪乱と二次構造の転移が観察され、αヘリックスの減少とβシートおよびランダムコイルの増加が明確でした。これらを総合すると、茹で過程におけるM. lyrata各組織の変性、分解、構造再編成の様相が定量的に示され、加熱による品質変化の機構理解に資する基盤データが提供されています。

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