定量器としてのStellar MS

(a)が従来のトリプル四重極型質量分析計、(b)がStellar MS

2024年に発表されたStellar MS (Thermo)はOrbitrap Astralと比べるとまだ報告も少なく、有名ではない。

一方で高価な高分解能MSを除いた時、定量器としての性能は現状最も優れており、第一選択になるだろう。

トリプル四重極型質量分析計は感度をいくら向上させても原理的にどうしても特異性の観点で高分解能MSには及ばない。

その点Stellar MSは新しい構造(liner-iontrap)によってMS3を取得できるため、特異性の観点でトリプル四重極型質量分析計を上回る。

さらにsoftware面でも優れており、skylineの機能であるPRM ConductorによってDIAの結果から数千peptideのtarget解析methodを簡便に作成することが可能である。これまで数十程度が現実的であったのを考慮するとこれは驚異的である。

また感度も現状最高クラスであり、hardとsoftwareの両方を兼ね備えたマシンである。

一方でやはり特異性を最大限まで追求する場合は高分解能MSが適しており、やや中途半端なMSであることは否めない。


【要約】
近年の血漿プロテオミクス研究では、バイオマーカ候補の発見が進む一方、臨床応用には旧来のトリプル四重極質量分析計の限界が障害となっています。本研究では、「Stellar MS」と呼ばれるハイブリッド高速質量分析計を評価しました。この装置は、トリプル四重極の堅牢性と高性能リニアイオントラップを併せ持ち、並列反応モニタリング(PRM)やMS³による高感度・高特異性解析を高速に行えます。Orbitrap Astral MSで検出された数千のペプチドをターゲットにし、高い再現性と低変動係数(CV)を達成。上位1000種以上の血漿タンパク質の定量に適する性能を示しました。さらに、アルコール性肝疾患(ALD)のバイオマーカーを対象としたターゲットアッセイを構築し、¹⁵N標識タンパク質を用いて迅速かつ汎用的な絶対定量の手法を提示。Stellar MSは、プロテオミクスの基礎研究と臨床診断を繋ぐ架け橋となる可能性があると結論づけています。

https://www.mcponline.org/article/S1535-9476(25)00149-5/fulltextz

Wahle, Maria, et al. “A novel hybrid high speed mass spectrometer allows rapid translation from biomarker candidates to targeted clinical tests using 15N labeled proteins.” Molecular & Cellular Proteomics (2025): 101050.

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