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    氷上保存遅延による血漿タンパク質組成変動

    今回紹介するのは、採血後の氷上保管が血漿プロテオームに与える影響を系統的に評価し、タンパク質ではなくペプチドを指標とする新たな血液バイオマーカー戦略を示した研究です。臨床現場で課題となる「即時の血漿分離」をあえて遅らせ、0/4/8時間のオンアイス保管後に処理した試料を、ラベルフリー定量のデータインディペンデントMS/MS(DIA)とプロジェクト特異的スペクトルライブラリで解析しました。分画なし・技術複製ありのLC-MS/MSワークフローで、各試料あたり752〜1,000(平均903±58)個のタンパク質群を同定し、同一ドナー内で72〜86%は3条件すべてに共通して検出されました。

    一方で定量解析では、わずか4時間の処理遅延でも血漿プロテオームに有意な変動が生じ、臨床で用いられるvon Willebrand因子(VWF)は遅延条件で低下しました。興味深いことに、VWF由来のいくつかのペプチドは保管中の分解に比較的耐性を示し、ペプチドレベルの指標がin vivoの状態をより忠実に反映し得ることを示唆します。これらの結果は、血漿解析における前処理遅延の影響を踏まえつつ、安定なペプチドを基盤とする疾患特異的パネルの開発が、臨床プロテオミクスの精密・予測診断を前進させる鍵であることを強調しています。

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    細胞外小胞ペプチドミクス子宮内膜癌サブタイプ分類

    今回紹介するのは、血漿由来の細胞外小胞(EV)のペプチドミクスに、MALDI-TOF質量分析とLC-MS/MSを統合し、機械学習で子宮体癌(EC)の迅速なスクリーニングと分子サブタイプ分類を行う最小侵襲アプローチです。EC患者と対照からEVを分離し、MALDI-TOFで得たペプチドームのフィンガープリントに、腫瘍マーカー(CA125、HE4)および臨床リスク因子を組み合わせて学習モデルを構築しました。LC-MS/MSはEVペプチドの同定に用いられており、抄録中ではMS機種名、LCメソッド名、Evosep使用の有無は明記されていません。

    主結果として、12の識別的MALDI-TOF特徴量にCA125/HE4と臨床情報を加えたモデルでEC対照識別のAUC 0.867を達成。分子サブタイプ(POLE変異、NSMP、MMRd、p53異常)の多クラス分類ではmicro/macro平均AUCが0.91/0.90でした。LC-MS/MSでは7,479ペプチドを同定し、FGA(フィブリノゲンα鎖)、PRSS3、APOA1がサブタイプ特異的な有力バイオマーカーとして抽出されています。本研究は、血液ベースのEVペプチドミクスと機械学習を組み合わせた高スループット・費用対効果の高いプラットフォームの有用性を示し、侵襲的な組織生検や時間のかかるゲノム解析への依存を補完しうる、精密医療への橋渡しを提示しています。

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    ラムノサス細胞外小胞の機能とプロテオミクス解析

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    今回紹介するのは、乳酸菌 Lactobacillus rhamnosus が放出する細胞外小胞(EV)と、細胞由来小胞(CDV)を並行して比較し、その形態・プロテオーム・機能を総合評価した研究です。ナノ粒子追跡解析と透過型電子顕微鏡で両者はいずれも球状であることが示され、ウエスタンブロッティングではHSP70がEVに特異的に検出されました。LC-MS/MSによるプロテオミクス解析では計1,342タンパク質を同定し、CDVに特有のものが114種見いだされました。発現差解析ではEVで70種が上昇、81種が低下し、GO解析からEVはシグナル伝達・環境適応・膜輸送関連に富み、CDVはリボソームや核酸代謝関連が優位という、由来の異なる小胞間での明確な濃縮パターンが示されています。

    機能面では、EVがCDVよりも抗酸化・抗炎症活性のいずれでも有意に高いことが実証され、プロテオームの違いが生理活性に結びつく可能性が示唆されました。L. rhamnosus 由来EVの特異的なタンパク質シグネチャーと優れた生理活性は、プロバイオティクスを基盤とする応用、特に皮膚の健康を標的とした戦略の候補としての位置づけを後押しする結果です。今回のプロテオミクスはLC-MS/MSで実施されていますが、特定のMS機種名やLCメソッド、Evosepの使用についての記載はありません。

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    パイナップル水浸障害のプロテオミクス

    今回紹介するのは、パイナップル果実で成熟後期に発生し貯蔵性を低下させる生理障害「ウォーターコア」の分子基盤を、比較プロテオミクスで追究した研究です。研究ではデータ非依存型取得(DIA)によるLC–MS/MSを用い、抵抗性系統“35-1”と感受性系統“29-3”の比較、さらに健全な“Paris”と発症した“Paris”果肉の比較を実施しました。

    抵抗性“35-1”対感受性“29-3”では、差次的発現タンパク質(DEPs)や系統特異タンパク質(SEPs)が細胞壁、分泌小胞、アポプラストに富み、細胞壁の緩み、ホルモン応答、イソフラボノイドおよびファルネシル二リン酸生合成に関与する機能が強調されました。一方、健全対発症“Paris”では、リボソーム小サブユニット生合成に関わるタンパク質群が富み、tRNA合成、チューブリン生合成、炭水化物代謝を司る中心的ネットワークが示唆されました。両比較で一部のタンパク質に重なりが見られ、抵抗性“35-1”および健全“Paris”ではフェニルアラニンアンモニアリアーゼ、ラフィノース合成酵素、エクスパンシン、マンナン加水分解酵素などのストレス応答・細胞壁改変関連タンパク質が蓄積し、感受性“29-3”や発症“Paris”ではアルコール脱水素酵素、1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸酸化酵素、低酸素誘導タンパク質などのストレス応答タンパク質が顕著でした。これらの知見は、ウォーターコアの抵抗性・感受性に関わる候補タンパク質群を提示し、抵抗性系統育成や障害制御の分子的基盤を提供します。

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    メタンフェタミン投与後背側線条体SNプロテオーム

    今回紹介するのは、急性メタンフェタミン投与がシナプス蛋白質に与える変化を、ラット背側線条体のシナプトニューロソーム(SN)を用いて深く掘り下げたディスカバリー型プロテオミクス研究です。著者らはTMTラベリング、オフライン高pH分画、低pHナノフローLCを組み合わせ、高分解能Orbitrap質量分析(HRMS)で測定しました(Evosepの使用記載はありません)。わずか約500 ngのSN消化物から約6100の細胞質および膜タンパク質を同定し、背側線条体SNとしてはこれまでで最も包括的なプロテームを実現しています。

    メタンフェタミン投与1時間後と生理食塩水対照を比較すると、合計147タンパク質が有意に変動(増加81、減少66)し、ドーパミン生合成、シナプス小胞サイクリング、ミトコンドリアエネルギー代謝、プロテアソーム分解といった経路に富むことが示されました。これらはメタンフェタミンに応答した線条体シナプスの分子リモデリングを示唆し、特に小胞酸性化、ミトコンドリアATP供給、プロテアソーム機能を検証可能な経路レベルの標的として提案します。深層・低入力SNプロテオミクスの有用性を示し、依存症研究における新たな分子標的同定の足場を提供する結果です。

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    マイコプラズマ肺炎アジスロマイシン耐性指標候補

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    今回紹介するのは、アジスロマイシン(AZM)感受性と耐性を示すマイコプラズマ肺炎患者の血清エクソソームをプロテオミクスで比較し、耐性診断のための候補バイオマーカーを探索した研究です。患者の治療前後の血清からエクソソームを分離し、ナノ粒子追跡解析(NTA)で特性評価後、LC-MS/MSによるプロテオーム解析で応答群(responder)と非応答群(non-responder)を比較しました。その結果、AZM耐性と関連するエクソソーム蛋白質の発現差が明確に観察され、シグナル経路としてHIF-1およびIL-17が関与することが示されました。

    特にKCTD12、LTF、TF、MPOの4蛋白が群間の識別に有望で、感度80%以上、特異度73.33%という性能で応答群と非応答群を判別できることが示されました。血清エクソソーム由来のプロテオーム情報を用いたLC-MS/MS解析により、AZM非応答患者の同定に資する候補指標が得られた点が本研究の意義です。今後はより大規模コホートでの検証と、臨床実装に向けた有用性評価が求められます。

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    煮沸時二枚貝蛋白質構造変化

    今回紹介するのは、Meretrix lyrataの閉殻筋、足、サイフォンの3組織を対象に、茹で時間の進行に伴うタンパク質の構造・コンフォメーション変化を多角的に追跡した研究です。データ非依存型取得(DIA)による定量プロテオミクスで6つの時間比較群(20–0、40–20、60–40、80–60、100–80、120–100秒)を解析し、計6527タンパク質を同定、差次的発現タンパク質(DEP)のGO解析から生物学的制御や代謝プロセスへの関与が示されました。プロテオミクスに加え、濁度、粒径分布、ゼータ電位測定、そしてFT-IRを組み合わせることで、加熱に伴う分子間相互作用や二次構造の変化を系統的に評価しています。

    主結果として、ミオシン重鎖、パラミオシン、アクチンといった筋原線維タンパク質は組織特異的な発現パターンを示し、加熱が進むほど17 kDa未満の低分子断片が出現しました。濁度は閉殻筋とサイフォンで60秒、足で80秒にピークに達し、粒径分布は100–1000 nmへと狭まり、ゼータ電位は低下してタンパク質表面電荷の減少が示唆されました。FT-IRでは水素結合の攪乱と二次構造の転移が観察され、αヘリックスの減少とβシートおよびランダムコイルの増加が明確でした。これらを総合すると、茹で過程におけるM. lyrata各組織の変性、分解、構造再編成の様相が定量的に示され、加熱による品質変化の機構理解に資する基盤データが提供されています。

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    SCPEP1陽性基底細胞酸化ストレス経路再構築

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    今回紹介するのは、特発性肺線維症(IPF)における酸化ストレス(OS)の細胞種別・空間的な偏りを、単一細胞RNA-seq、空間トランスクリプトミクス、バルクRNA-seqを統合して描き出した研究です。著者らは複数のエンリッチメント手法でOSスコアを算出し、LASSO、Random Forest、Boruta、Bayesian、LVQ、Treebagなどの機械学習で診断バイオマーカー候補を選別しました。発現の頑健性は公的データセットとブレオマイシン誘発C57BL/6マウスモデルで検証され、さらにCellChatや擬時間解析により細胞間コミュニケーションと転写制御の動態が評価されています。

    結果として、OS活性はIPF肺で全体に上昇し、特に基底細胞で顕著に富むことが示されました。71遺伝子候補の中からSCPEP1が最も堅牢な指標として浮上し、複数データセットと実験系で一貫して上方変動、トレーニングコホートでAUC 0.857を示しました。SCPEP1発現は気道近傍に空間的に偏在し、基底細胞に高い特異性を持ち、SCPEP1陽性基底細胞はWntシグナルや発生経路の再プログラム化、擬時間の初期段階での動的発現を特徴としました。さらに、MIF–CD74、MDK–NCL、ICAM1–ITGALといった線維化・炎症性のシグナル軸を介して免疫・間質細胞と多面的に相互作用することが示され、レドックス感受性経路やリガンド–受容体相互作用の優先的検討に資する知見と位置づけられます。なお、本研究はトランスクリプトーム統合解析に基づいており、質量分析計やLCメソッド、Evosepの使用に関する情報は示されていません。

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    消化器腫瘍ラクチル化機構と治療標的

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    今回紹介するのは、乳酸代謝に由来する新規エピジェネティック修飾「ラクトイル化」が消化器系腫瘍で果たす役割を総説したレビューです。ヒストンおよび非ヒストン蛋白質のラクトイル化(例:H3K9la、H3K18la)を介してクロマチンアクセスビリティを変え、転写プログラムを活性化することで、腫瘍進展、代謝リプログラミング、免疫回避、化学療法耐性を駆動するという知見が、食道がん、胃がん、大腸がん、肝細胞がん、膵がん、胆嚢がんにわたり整理されています。代謝—エピジェネティクスのクロストークを軸に、がん関連シグナリングのエピジェネティック制御という観点から最新動向を俯瞰しています。

    本レビューは、ラクトイル化を標的とするバイオマーカーや治療標的、薬理学的介入戦略の可能性をまとめる一方で、検出法の標準化と臨床的有効性の検証が未解決の課題であることを強調します。こうした機構解明は消化器がん生物学の理解を深め、新たな治療標的の地平を開くものであり、今後は腫瘍免疫療法やプレシジョンメディシンにおけるラクトイル化の関与解読が、早期診断と個別化治療に向けた具体的指針を与えるとしています。

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    妊娠抑うつとSRI治療の胎盤蛋白質発現

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    今回紹介するのは、妊娠中の抑うつと選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SRI)治療がヒト胎盤のタンパク質発現に与える影響を調べた定量プロテオミクス研究です。妊娠第2三半期に登録された82名を対象に、Hamilton Depression Rating Scale(HAM-D)で評価したうえで、非抑うつ、抑うつ・非SRI治療、抑うつ・SRI治療の3群に分類。胎盤組織に対してショットガンLC-MS/MSを用い、差次的発現解析とオーバーリプレゼンテーション解析を実施しました。

    抑うつ・非SRI治療群と健常群の比較では、抗酸化酵素や多様なSASP関連因子の増加とヒストンの減少が見られ、胎盤のセネセンスを示唆するパターンが観察されました。さらに、血小板活性化・脱顆粒、凝固カスケード、アミロイド線維形成に関与するタンパク質のアップレギュレーションも明らかになりました。一方で、抑うつ・SRI治療群を抑うつ・非治療群と比較すると、いくつかのタンパク質でダウンレギュレーションが認められました。無作為化が難しい母体メンタルヘルス研究において、胎盤という鍵器官のプロテオームを介して抑うつそのものの影響と薬物治療の影響を切り分ける端緒を示した点が意義深く、妊娠中の抑うつ管理のリスク・ベネフィットを考える基礎情報を提供します。

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