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    卵巣がん血漿バイオマーカー探索

    今回紹介するのは、卵巣がんの血漿プロテオミクスで超高感度な候補バイオマーカー探索に挑んだ研究です。著者らは、網羅的なDDAショットガンLC–MS/MSとターゲット指向のMRMに、AFM(原子間力顕微鏡)ベースの濃縮をMSに直結したAFM‑MSを統合し、従来法の検出限界を下回る感度を実現しました。この多プラットフォーム戦略により、卵巣がん進行に関与するタンパク質の拡張リストを血中から作成。MS機種名や具体的なLCメソッド、Evosep使用の有無は抄録では明記されていませんが、AFMによる前処理強化とショットガン/ターゲットの相補性を活かした設計が特徴です。

    主な成果として、計371種の関連タンパク質を同定し、その33%はAFM‑MSでのみ検出、26%はメタボロミクスとの関連から見出されました。既報の卵巣がん特異的マーカーに一致するものは6%で、手法の妥当性を裏づけています。さらにATRN、CPN1、APOF、TGM3、CRNNを含む9種の新規候補を提案。高豊度かつ炎症依存性の免疫グロブリン可変領域ペプチドは特異性が低い背景として再分類しています。候補群は血中で10^-12~10^-6 mol/Lの広い濃度域に分布し、本アプローチは従来のプロテオミクスの感度制約を乗り越え、他の多因子性疾患のマーカー探索にも展開可能であることを示しました。

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    肺動脈性肺高血圧症循環タンパク質生体指標

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    出典:論文ページ

    今回紹介するのは、肺動脈性肺高血圧症(PAH)の循環タンパク質バイオマーカーを総覧し、技術動向と臨床的な使いどころを整理したレビューです。従来広く使われるBNPやNT-proBNPは特異性や変動の大きさが課題で、病態把握や早期診断には限界があります。本論文は、Apelin、Osteopontin、Endostatinなどの新規候補に加え、高スループットプロテオミクス(SOMAscan、Olink、質量分析ベースのアッセイ)がもたらした発見を比較し、技術間の感度・特異性や網羅性の違いを解説しています。質量分析ベースの手法についても俯瞰的に扱われていますが、個別のMS機種やLC条件、Evosepの使用有無には踏み込みません。

    主な知見として、LTBP-2、IGFBPファミリー、NET4、TSP2、FGF-23といったプロテオミクス由来の候補が、予後予測で優位性を示し、既存のリスク層別化を補完あるいは上回る可能性が示されています。一方で、アッセイ標準化やコホートの不均一性、再現性検証の不足といった橋渡しの壁も明確化されました。著者らは、プロテオミクスを画像診断やゲノミクスと統合するアプローチを提案し、PAHの精密診断と個別化治療の実装に向けた実用的な道筋を示しています。

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    LCMS代謝物参照ライブラリ作成支援

    今回紹介するのは、非標的メタボロミクスにおける同定のボトルネックを緩和するための半自動ツール「metScribeR」です。標準品を用いた保持時間(RT)情報つきの自家製ライブラリは、大規模なMS/MSスペクトルリポジトリを補完しますが、作成に手間がかかります。metScribeRはRパッケージとShinyアプリとして実装され、ピーク検出、フィルタリング、包括的な品質レビューを直感的なUIで支援し、RTとm/zのライブラリ化を加速します。特徴的なのは、MS/MSスペクトルを必須とせずにアダクトごとの同定確率を推定できる点です。

    ベンチマークでは、標準品1種あたり約10秒の計算・操作で処理でき、手動アノテーションとmetScribeRのRTは相関係数0.99と高く一致し、品質の低いピークは適切に除外されました。出力はID、m/z、RT、ピーク品質情報に加え、MassBank of North Americaから取得したMS/MSスペクトルを含むCSV形式で提供されます。オープンソースとして公開されており、LC–MSの自家製リファレンスライブラリ構築を効率化することで、非標的データの解釈と化合物同定の実務を実用的に後押しします。なお、特定のMS機種名やLCメソッド、Evosepの使用については本報告からは読み取れません。

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    血漿プロテオームとN型グリコプロテオーム同時解析

    今回紹介するのは、単一アリコート・濃縮不要で血漿プロテオームとN型グリコプロテオームを同時に高スループット解析するデュアルオミクス基盤です。上位14種の高豊富性タンパク質を除去後、同一消化試料から23分の狭窓DIAと42分のSCE-DDAを連続実行するペアラン設計により、臨床スループットは約24例/日を達成。1検体あたり3,756±413のタンパク質群と1,226±78のグリコペプチドをカバーし、その中にはFDA承認薬標的が303含まれます。旧世代機とのクロスプラットフォーム比較では、113 PGs/分の速度で10~20倍以上の高速化と、タンパク質量の高い再現性(Pearson r > 0.9)を示し、装置間での移植性を実証しました。

    臨床応用では、肺がん・低線量CTで検出された非がん結節・対照を含む300例の血漿解析で、がんと結節間でS100およびアネキシンファミリーに差が見られました。さらに、30例で実施したペアのグリコプロテオミクスでは、FN1、IGHG2、C3、METにおける部位特異的N型糖鎖修飾の変化を、総タンパク量とは独立して検出し、早期肺がん検出に向けた追加の候補バイオマーカーを提示しています。本手法は、深いカバレッジとスケーラビリティ、縦断的再現性を両立し、装置・施設をまたいだ臨床バイオマーカー探索と検証を後押しします。

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    膠芽腫テモゾロミド早期応答とペプチド抗原

    今回紹介するのは、グリオブラストーマ(GBM)に対する標準薬テモゾロミド(TMZ)が投与後早期に引き起こす細胞内応答を多層オミクスで横断的に捉えた研究です。RNAシーケンスと定量LC–MS/MSを組み合わせ、曝露後72時間以内の遺伝子発現、新生タンパク質翻訳、定常タンパク質量、キナーゼ基質レベルのリン酸化パターン、さらにMHC-Iペプチド提示(免疫ペプチドーム)までを一体的にプロファイルしました。

    解析の結果、DNA損傷シグナリングとp53関連ストレス経路が迅速に活性化し、タンパク質合成や抗原提示が動的に変化することが判明しました。特にTMZ治療関連ペプチド抗原(TAPA)群を同定し、ストレス応答由来のペプチドやリン酸化MHC-Iペプチド、放射線など他の遺伝毒性処置でも誘導されるペプチドを含むこと、さらにその一部が再発GBM患者腫瘍でも検出されることを示しました。これらの知見は、TMZが適応的かつ潜在的に耐性につながるストレスプログラムを早期に作動させる一方で、腫瘍の免疫可視性を高めうることを示唆し、TMZと免疫認識を強化する治療との併用に適した時間的“窓”の存在を示すとともに、遺伝毒性治療が腫瘍免疫原性をどう変えるかを解剖する汎用的フレームワークを提示しています。

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    クエシャンとユノン黒豚の風味差

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    出典:論文ページ

    今回紹介するのは、Queshan(確山)黒豚とYunong(豫農)黒豚の風味の違いを、マルチオミクス解析で解き明かした研究です。著者らは複数のオミクス層のデータを統合し、両系統の間で風味に関与する分子レベルの特徴を体系的に比較しました。

    その結果、各系統に特徴的な分子的シグネチャーが示され、風味差の背景にある生物学的基盤が可視化されています。これらの知見は、風味を重視した品種選抜や客観的な品質評価に向けた指標づくりに役立つことが期待され、黒豚製品の価値向上に資する科学的根拠を提供します。

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    微小免疫細胞単一細胞プロテオミクス

    今回紹介するのは、単一細胞プロテオミクスの深度と再現性を大きく押し上げたラベルフリーSCPプラットフォームです。低入力向けに最適化したサンプル前処理、精緻化した液体クロマトグラフィー、そしてOrbitrap Astral Zoom質量分析計を統合し、個々のHeLa細胞から平均で7,000種超のタンパク質を定量化。これまで捉えにくかった低豊度タンパク質も多数カバーし、深度と再現性の両立を示しました(LCの具体的メソッド名は記載なし、Evosep使用の言及もありません)。

    本手法を非常に小さな末梢血単核球(PBMC)に適用すると、単一細胞あたり最大約4,000タンパク質を同定し、ヘテロな集団内で単球、T細胞、活性化リンパ球を識別する鍵マーカーも検出。臨床的に重要な一次サンプルに対しても、深い網羅性と精度で機能的ヘテロ性を直接読み解ける段階に到達したことを示しています。

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    一次性FSGSのプロテアーゼ恒常性異常

    今回紹介するのは、原発性巣状分節性糸球体硬化症(pFSGS)の血清プロテオームをLC–MSで精査し、疾患特異的シグネチャーと病態機序の手掛かりを示した研究です。研究チームは、pFSGS 36例、他の蛋白尿性腎疾患33例、健常対照34例の計103検体の血清をLC–MSベースで解析し、見出した候補タンパク質を不死化ヒトポドサイト培養系で機能検証しました。さらに、ゼブラフィッシュ幼生での全身性ノックダウンと、患者腎生検および魚類切片での蛍光免疫染色により、蛋白尿や浮腫などの表現型と組織局在を確認しています。

    結果として、pFSGSに特異的に変動する27種類のタンパク質が同定され、プロテアーゼとそのインヒビターの恒常性破綻が中核にあることが示唆されました。頻回再発を呈する若年pFSGS患者では、23種類のタンパク質からなる別個の血清プロファイルも明らかになりました。中でもSERPINA1(α1-アンチトリプシン)に注目し、尿中SERPINA1はネフローゼ症候群全般で上昇する一方、血清SERPINA1の低下はpFSGSに特異的であることを示しました。糸球体の硬化病変ではSERPINA1の局所発現が増加し、ポドサイトはSERPINA1を構成的に分泌するものの、プロテアーゼストレス下での適応は限定的でした。ゼブラフィッシュでのserpina1ノックダウンは浮腫と蛋白尿を誘発し、プロテアーゼ制御破綻がpFSGSの病態に関与することを支持します。これらの所見は、pFSGSの層別化やバイオマーカー開発、さらにはプロテアーゼ—インヒビター軸を標的とした治療戦略の設計に資する基盤データといえます。

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    炎症性腸疾患試料mzML

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    今回紹介するのは、QuantMS Nextflowパイプラインでの前処理を学ぶことを目的に設計された教育用プロテオミクスデータセットです。The Inflammatory Bowel Disease Multi-omics Database由来の3サンプル(non-IBD: 160914_9SD9G、UC: 160920_AKTWT、UC: 160928_6ZEWG)からの質量分析データが、mzML形式で提供されており、測定はThermo Scientific Q-Exactive Orbitrapで行われています。

    本データセットは、QuantMS Nextflowへのデータインポートから前処理工程の理解までを体系的に学べる構成となっており、学生や研究者の実習に適しています。LCメソッド名やEvosep使用の有無は抄録では明記されていませんが、mzMLを直接扱えるため環境依存性が低く、パイプライン操作と前処理手順の習得にフォーカスできる点が特徴です。

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    家兎動脈硬化巣の分子指標

    今回紹介するのは、ウサギ腹部大動脈のアテローム性病変を対象に、TMTラベル化定量プロテオミクスとLC-MSによる非標的メタボロミクスを統合した解析でプラークの分子像を描き出した研究です。モデル群とシャム群にランダム化した後、腹部大動脈を回収しproteinase Kで処理、取得データを一変量・多変量統計で評価し、差次的タンパク質と代謝物の相関をPearson相関で解析、関与経路はKEGG富化で推定しています。

    結果としてモデル群では進行したプラークが形成され、損傷大動脈では207種のタンパク質が有意に変動(上昇133、低下74、fold change>1.2、P<0.05)。代謝物は陽イオンモードで234、陰イオンモードで187が有意に変化し、脂質ではPC(9:0)やLPC(20:2)の増加が目立ちました。KEGG解析からはプリン代謝や血管平滑筋収縮などの経路が示唆され、タンパク質・代謝物の連関が病変の機能的背景と結び付けられています。これらの所見は、統合オミクス(TMT定量プロテオミクス+LC-MSメタボロミクス)がアテローム硬化の分子特性解明に有用であり、同定分子がプラーク診断のバイオマーカー候補となり得ることを裏付けます。

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