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    低解像度FAIMSによるペプチド同定向上

    本研究では、Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometry(FAIMS)の低解像度を利用して、低負荷および単一細胞プロテオミクスにおけるペプチドカバレッジの向上を目指しました。FAIMSは、イオンの異なる移動度に基づいて信号対雑音比を向上させるため、単一細胞や低入力のプロテオミクスにおいて不可欠なツールです。研究では、電極温度の調整によるFAIMS解像度の調整がペプチド同定感度に与える影響を調査し、FAIMS解像度を下げることで補償電圧ウィンドウが広がり、イオン伝送が増加することを示しました。この低解像度モードは、HeLa消化物の濃度範囲からのペプチド同定を最大18%向上させ、単一細胞サンプルでも同様の効果が観察されました。

    • FAIMSの低解像度モードは、ペプチド同定の精度を向上させ、主成分分析において同一細胞型の異なる集団を明らかにします。
    • 低解像度FAIMSを使用することで、低負荷測定の定量的精度が向上します。
    • これらの結果は、FAIMSベースの低入力プロテオミクスワークフローにおける実用的な最適化戦略を提供し、ハードウェアやデータ解析パイプラインの変更なしに、単一の設定を変更することで改善を可能にします。

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    小児肥満におけるプロテオミクスの役割

    小児肥満は21世紀の重要な公衆衛生課題の一つとして浮上しており、早期の肥満は将来的に多くの合併症を引き起こすリスクが高まります。肥満の発症および持続に関与する分子メカニズムは未だ完全には理解されていませんが、プロテオミクスはこれらのメカニズムに関する有望な洞察を提供します。本研究では、PubMed、Scopus、Web of Scienceを用いて、2010年から2025年に発表された小児肥満に関するヒト研究を系統的に検索し、239件の文献から20件を選定しました。主にLC-MS/MS技術を用いてプロテオミクス解析が行われ、APOA1、CLU、HPなどの重要な異常調節タンパク質が特定されました。

    • プロテオミクスは小児肥満の早期発見と個別化治療に臨床的な可能性を持つ。
    • 一部のバイオマーカーは、小児における肥満の合併症を予測する能力がある。
    • 標準化された方法論と縦断的研究が臨床実践への移行に必要である。

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    単一細胞プロテオミクスの新手法

    単一細胞質量分析(MS)は、細胞のプロテオームを高感度でプロファイリングする手法ですが、高度な機器のコストが普及を妨げています。本研究では、キャピラリー電気泳動(CE)とデータ依存型取得(DDA)、電気泳動相関(Eco)イオンソーティングを組み合わせ、人工知能(AI)を用いたスペクトルのデコンボリューション技術CHIMERYS(Eco–AI)を活用することで、単一細胞プロテオミクスへのアクセスを広げることを目指しました。この「リアルタイムEco–AI」ワークフローは、レガシーのハイブリッド四重極オービトラップ質量分析計(Q Exactive Plus)に接続されたカスタムCEプラットフォーム上で実施されました。

    この手法により、1 ngのHeLa消化物から2142のタンパク質が同定され、現代のnanoLC Orbitrap Fusion Lumosで検出された969のタンパク質を上回りました。また、約250 pg(単一細胞相当)からも1799のタンパク質が15分未満で同定され、理論的には1日あたり48サンプルのスループットが可能です。実証実験として、リアルタイムEco–AIはXenopus laevisの胚の単一前駆細胞から1524のタンパク質をプロファイリングし、神経系と表皮系の運命決定におけるプロテオームの非対称性を明らかにしました。これにより、リアルタイムEco–AIは、CE–MSを用いた単一細胞プロテオミクスのためのコスト効率の良い強力な戦略であることが示されました。

    • リアルタイムEco–AIは、CEとDDAを組み合わせた新しい単一細胞プロテオミクス手法である。
    • Q Exactive Plusを使用し、1 ngのサンプルから2142のタンパク質を同定した。
    • 約250 pgのサンプルからも1799のタンパク質を15分未満で同定可能で、理論的に48サンプル/日のスループットを実現。

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    単細胞プロテオミクスの新手法

    単一細胞質量分析(MS)は、細胞のプロテオームを高感度でプロファイリングする手法ですが、高度な機器のコストが普及の障壁となっています。本研究では、キャピラリー電気泳動(CE)とデータ依存型取得(DDA)、および電気泳動相関(Eco)イオンソーティングを組み合わせ、AI支援のスペクトルデコンボリューションを行う「Real-Time Eco-AI」ワークフローを提案しました。このワークフローは、レガシーのハイブリッド四重極オービトラップ質量分析計(Q Exactive Plus)にカスタムビルドのCEプラットフォームを接続して実施されました。

    この手法により、1 ngのHeLa消化物から2142のタンパク質を同定し、現代のnanoLC Orbitrap Fusion Lumosで検出された969のタンパク質を上回る結果が得られました。また、約250 pg(単一細胞相当)からも1799のタンパク質を15分未満で同定し、理論的には1日あたり48サンプルのスループットを達成しました。さらに、Xenopus laevisの胚において、神経系と表皮系の運命指定におけるプロテオームの非対称性を明らかにしました。この結果は、CE-MSを用いた単一細胞プロテオミクスにおけるコスト効果の高い強力な戦略としてのReal-Time Eco-AIの有用性を示しています。

    • Real-Time Eco-AIは、CEとDDAを組み合わせた新しい単一細胞プロテオミクス手法である。
    • Q Exactive Plusを用いた実験で、1 ngのサンプルから2142のタンパク質を同定。
    • 単一細胞相当の250 pgからも1799のタンパク質を迅速に同定し、理論的なスループットは48サンプル/日。

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    確率共鳴による単一細胞プロテオミクスの成功

    本研究は、単一細胞プロテオミクスにおける成功の背後にある確率共鳴現象を探求しています。確率共鳴は、信号の線形性を犠牲にしながら、しきい値以下の信号をノイズによって検出する現象です。著者らは、タンデムマスタグ(TMT)を用いてキャリアプロテオームと多重化された単一細胞プロテオームのペプチド信号が、Orbitrap質量分析計において名目上の検出しきい値を下回っていることを示しました。この信号は、確率共鳴の増幅により質量スペクトルに登録され、増幅の程度は0.5〜2.5単一細胞相当であることが明らかになりました。さらに、対応する量の一定の「ペデスタル」プロテオームを添加することで、アナライトの単一細胞プロテオームの信号が検出しきい値を超え、検出能力が向上し、定量の線形性が大幅に回復することが示されました。

    • 確率共鳴により、しきい値以下の信号が検出可能になる。
    • TMTを用いた多重化により、単一細胞プロテオームの信号が増幅される。
    • ペデスタルプロテオームの添加が信号の検出性と定量の線形性を改善する。

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    複数蓄積前駆体質量分析法の改善

    本研究は、Orbitrapベースの質量分析計を用いて、前駆体の動的範囲を拡張する新たな手法「複数蓄積前駆体質量分析法(MAP-MS)」を提案しています。従来のOrbitrapの欠点であるスキャン速度の遅さを克服するために、選択されたイオンモニタリング法を改良し、複数の前駆体m/z範囲を単一スキャンにマルチプレックスすることで、前駆体スペクトルの動的範囲をほぼ2倍に向上させることが可能となりました。この手法は、ソフトウェアやハードウェアの改造を必要とせず、他のOrbitrap測定を行っている間に追加のイオン蓄積ステップを隠すことができます。

    主な結果として、データ依存取得(DDA)およびデータ非依存取得(DIA)を用いて、前駆体の定量化が向上し、DIAではペプチド検出のために前駆体およびタンデム質量スペクトルを組み合わせることで最大11%の検出向上が得られました。

    • MAP-MSにより、Orbitrapの動的範囲がほぼ2倍に向上。
    • DDAでは高品質な測定による前駆体定量化の改善が確認。
    • DIAにおいては、前駆体とタンデム質量スペクトルの組み合わせで検出感度が向上。

    技術メモ

    • MS機種: Orbitrap
    • LC法: 不明
    • 取得モード: DDA, DIA
    • 前処理: 不明

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    血漿由来外因性小胞のプロテオミクス解析

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    出典:論文ページ

    本研究は、内臓リーシュマニア症(VL)の治療成功や再発の早期予測因子が不足している中、血漿由来の細胞外小胞(EV)におけるタンパク質バイオマーカーを特定することを目的としています。免疫機能が正常なVL患者からのEVのプロテオミクスプロファイルをLC-MS/MSを用いて分析し、治療後の経過に応じたバイオマーカーの変化を評価しました。

    132種類のヒトタンパク質が、活動的なVL患者と治療に成功した患者で異なる発現を示しました。これにより、SAAが全血漿中で直接測定可能であり、患者管理における有望な非特異的予後バイオマーカーとして浮上しました。また、EVサンプル中にリーシュマニア属のタンパク質も同定され、ヒトサンプルにおける新たな寄生虫バイオマーカーの供給源を示唆しています。

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    安定同位体標準を用いた血漿スポットの多オミクス解析

    この研究は、乾燥血漿スポット(DBS)を用いた多オミクス分析のための包括的な分析戦略を開発したものである。安定同位体内部標準(SIIS)を事前にスポットすることで定量性を向上させ、最適化されたFolch抽出プロトコルと高解像度質量分析を組み合わせている。特に、HIV患者の空腹時血漿サンプルを用いて、糖尿病と非糖尿病の参加者間で異なる分子プロファイルを明らかにし、数百の代謝物と数千の脂質を同時に分析することに成功した。この方法は、DBSの利点を活かし、サンプル収集の簡素化や保存中の安定性向上、輸送時のバイオハザードリスクの低減を実現している。

    この研究は、従来のバイオバンキングが抱える物流上の課題を克服するための重要な進展を示しており、資源が限られた環境においても信頼性の高い多オミクス分析を可能にする基盤を築いている。

    • 乾燥血漿スポットを用いた新しい多オミクス分析法を開発。
    • 安定同位体内部標準を活用し、定量性と抽出効率を向上。
    • 糖尿病と非糖尿病の間での明確な分子プロファイルの違いを発見。

    技術メモ

    • MS機種: Thermo Q Exactive Orbitrap
    • 取得モード: 不明
    • 分離: Dionex Ultimate 3000 UHPLC
    • 前処理: Folch抽出プロトコル、SIIS使用

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    Deep visual proteomicsによるリアルな空間proteomicsの実現

    切片画像からセルセグメンテーションを行い、その座標をLMD(レーザーマイクロダイセクション)に読み込ませ切り取り→LC-MSにて測定することで、single cell レベルの空間プロテオミクスを実現した論文。

    Matthias Mann labからは最近この手の論文が複数出てきていますね。空間情報を保持したままsingle cellレベルのデータを取得するのはまさに究極の域に達していると思います。

    Evosep, Orbitrap Astral, LMD7という高額のハードだけでなくソフトウェア面でもなかなか導入ハードルは高そうです。。。

    LMDでsingle cellレベルで切り出し、それぞれから5000 protein以上を同定するのはかなりのノウハウが必要と感じます。


    【要約】この研究では、人間大腸オルガノイドを大腸内に移植(orthotopic transplantation)することで、in vitro培養されたオルガノイドがin vivoに近い形質を獲得するかを、Deep Visual Proteomics(DVP)という空間的・細胞内プロテオーム解析法を用いて調べています。DVP により、組織切片から細胞種を画像で識別し、その後対応するタンパク質を質量分析で定量することが可能です。移植したオルガノイドは、未移植のものと比べて上皮分化マーカー(例:KRT20など)をはじめ、分泌蛋白、代謝関連蛋白、細胞接着/構造蛋白など多くのプロファイルで、正常な大腸上皮や腫瘍組織の in vivo 表現型により近づくことが示されました。また、免疫細胞などの周囲微小環境との相互作用も促進され、in vitroでは見られない特徴が観察されています。結論として、orthotopically transplantedオルガノイドは培養系よりも自然な大腸の生理・構造をモデル化する能力が高く、疾患モデリングや創薬におけるより信頼性の高いプラットフォームとして期待されます。

    https://www.cell.com/cell-systems/fulltext/S2405-4712(25)00229-7

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    定量器としてのStellar MS

    (a)が従来のトリプル四重極型質量分析計、(b)がStellar MS

    2024年に発表されたStellar MS (Thermo)はOrbitrap Astralと比べるとまだ報告も少なく、有名ではない。

    一方で高価な高分解能MSを除いた時、定量器としての性能は現状最も優れており、第一選択になるだろう。

    トリプル四重極型質量分析計は感度をいくら向上させても原理的にどうしても特異性の観点で高分解能MSには及ばない。

    その点Stellar MSは新しい構造(liner-iontrap)によってMS3を取得できるため、特異性の観点でトリプル四重極型質量分析計を上回る。

    さらにsoftware面でも優れており、skylineの機能であるPRM ConductorによってDIAの結果から数千peptideのtarget解析methodを簡便に作成することが可能である。これまで数十程度が現実的であったのを考慮するとこれは驚異的である。

    また感度も現状最高クラスであり、hardとsoftwareの両方を兼ね備えたマシンである。

    一方でやはり特異性を最大限まで追求する場合は高分解能MSが適しており、やや中途半端なMSであることは否めない。


    【要約】
    近年の血漿プロテオミクス研究では、バイオマーカ候補の発見が進む一方、臨床応用には旧来のトリプル四重極質量分析計の限界が障害となっています。本研究では、「Stellar MS」と呼ばれるハイブリッド高速質量分析計を評価しました。この装置は、トリプル四重極の堅牢性と高性能リニアイオントラップを併せ持ち、並列反応モニタリング(PRM)やMS³による高感度・高特異性解析を高速に行えます。Orbitrap Astral MSで検出された数千のペプチドをターゲットにし、高い再現性と低変動係数(CV)を達成。上位1000種以上の血漿タンパク質の定量に適する性能を示しました。さらに、アルコール性肝疾患(ALD)のバイオマーカーを対象としたターゲットアッセイを構築し、¹⁵N標識タンパク質を用いて迅速かつ汎用的な絶対定量の手法を提示。Stellar MSは、プロテオミクスの基礎研究と臨床診断を繋ぐ架け橋となる可能性があると結論づけています。

    https://www.mcponline.org/article/S1535-9476(25)00149-5/fulltextz

    Wahle, Maria, et al. “A novel hybrid high speed mass spectrometer allows rapid translation from biomarker candidates to targeted clinical tests using 15N labeled proteins.” Molecular & Cellular Proteomics (2025): 101050.

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