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    単一細胞プロテオームトランスクリプトーム同時解析

    今回紹介するのは、同一の単一細胞からトランスクリプトームとプロテオームを同時に取得できる高スループット・マルチオミクス基盤nanoSPINSです。核となる工夫は、遠心力を用いたナノリットルスケールの「スピン・トランスファー」で、mRNAを含む液滴だけを二つのマイクロアレイ間で確実に移送し、タンパク質は初期プラットフォーム上に保持する点。これにより、RNAはRNA-seqで、タンパク質は同一細胞由来の画分を用いた等張性ラベル(TMTpro)LC–MSプロテオミクスで解析可能となり、同一細胞での統合解析を実現しています。

    二つの細胞株でのベンチマークでは、得られた網羅的プロテオーム/トランスクリプトームのプロファイルが既存手法と良好に整合し、TMTproによる多重化が単一細胞プロテオミクスのスループットを大幅に押し上げました。これにより、mRNAとタンパク質の両層で分子特徴を同定できるだけでなく、サンプル数の拡大によってクラスタリングや差次的発現・存在量解析の統計的検出力が向上。多様な細胞集団の特性解明に資する、実用性の高い単一細胞マルチオミクス・プラットフォームとしての有用性が示されています。

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    特徴量不要プロテオミクス用DIA転移学習

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    今回紹介するのは、DIAプロテオミクス向けのオープンソース検索フレームワークalphaDIAです。膨大化するMSデータに対し、統計的厳密さ・透明性・性能を両立することを目指し、クロマトグラフィー由来の特徴抽出に依存しない“feature-free”同定アルゴリズムを採用。生データ信号に直接機械学習を施すことで、特にtime-of-flight型質量分析計で得られるパターン検出に適しており、ベンチマークでは同定数と定量精度で競合手法に匹敵する性能を示しました。

    さらに、経験的ライブラリにも対応しつつ、完全予測ライブラリを用いる「DIAトランスファーラーニング」という探索戦略を提案。装置・実験ごとの特性を予測する深層学習モデルを継続的に最適化することで、機種・条件に依存せず、任意の翻訳後修飾に対して汎用的なDIA解析を可能にします。alphaDIAはローカルおよびクラウドで高性能に動作し、コミュニティがアクセスしやすい基盤としてDIA解析の裾野を広げます。

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    乳児てんかん性スパズム症候群ACTH治療応答指標

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    今回紹介するのは、乳児てんかん性スパズム症候群(IESS)に対する副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)治療の奏効性を左右する分子マーカーを、血漿DIAプロテオミクスで探索した研究です。IESS 60例をACTH有効(EF、n=30)と無効(IEF、n=30)に層別し、年齢・性別をマッチさせた健常対照40例と比較。データ非依存型取得(DIA)で差次的発現タンパク質を同定し、GO/KEGGで機能注釈、ROC解析で予測マーカーを評価し、ELISAで結果を検証しています。

    EF群に特異的なタンパク質が114種見いだされ、体液性免疫調節、貪食、補体・凝固カスケード、代謝関連経路の関与が示唆されました。特にC8β、プラスミノーゲン(PLG)、ハプトグロビン(HP)、アルドラーゼA(ALDOA)、コラーゲンXVIII α1(COL18A1)の5種はACTH奏効予測に有望で、各々のAUCが0.8超。ELISAでもEF群でC8βとPLGが高く、HP、ALDOA、COL18A1が低いことが再現され、DIAの傾向と一致しました。本研究は、IESSにおけるACTH反応性の分子基盤の一端を明らかにし、血漿バイオマーカーによる治療効果予測や患者層別化に向けた手がかりを提供します。

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    オービトラップアストラルズーム試作機の定量評価

    今回紹介するのは、改良型の Orbitrap Astral Zoom 質量分析計(プロトタイプ)の性能を標準の Orbitrap Astral MS と直接比較評価した研究です。多様な取得法とサンプル量にまたがって、プロトタイプは前駆体およびタンパク質同定数、イオンビーム利用効率、定量精度のいずれでも上回りました。装置間を公平に比べるため、信号強度(任意単位)をイオン/秒へ換算するイオン校正フレームワークを導入し、このベンチマークによりプロトタイプはペプチドあたりのサンプリングイオン数が元の Orbitrap Astral MS より23.1%多いことが示されました。このイオン取り込みの向上が感度と定量精度の改善に直結しています。

    さらに、DIA(data-independent acquisition)プロテオミクスでの実用性を高めるため、Skyline のドキュメントグリッドに、溶出ピーク頂点で測定されたイオン数やピーク積分範囲内の総イオン数を報告する新指標を追加し、各アナライトごとの「検出イオン数」に基づく汎用的な性能評価枠組みを提示しました。総じて、Orbitrap Astral Zoom プロトタイプはDIA解析における高性能プラットフォームであり、同定数を超えた定量的ベンチマークを可能にする点が意義といえます。なお、LCメソッド名やEvosepの使用に関する記載はありません。

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    多重ナノ粒子タンパク質コロナ血漿プロテオミクス

    今回紹介するのは、ナノ粒子(NP)のプロテインコロナを用いて血漿中のダイナミックレンジを圧縮し、MSでの検出深度を高めるProteograph Product Suiteの定量性能評価です。著者らはマルチスペシーズのスパイクインを用い、フォールドチェンジの正確性、線形性、精密さ、定量下限(LLOQ)を複数のMSプラットフォームで検証しました。その結果、Orbitrap Astral MSと組み合わせたProteograph XTアッセイで血漿タンパク質を7,000種超同定し、深度面での優位性を示しています。

    混合種の希釈実験ではフォールドチェンジの正確性を維持しつつ、同一誤差閾値でNeat plasmaワークフローの3.5倍多くのタンパク質を定量しました。Orbitrap Exploris 480 MSでも同様の定量精度が得られ、異なるプロテオーム背景の影響も受けにくいことが示されています。さらに、10万検体超を支え得る4つのNPバッチ間で、タンパク質強度のCV増加はわずか4%にとどまり、スケール化に耐える再現性を実証しました。これらの結果は、Proteograph Product Suiteが深いカバレッジと定量の正確性・精密さを両立し、集団規模の血漿プロテオミクスやバイオマーカー探索を後押しする基盤となり得ることを示します。

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    間葉系幹細胞クローン別細胞外小胞活性と臨床可能性

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    今回紹介するのは、間葉系間質細胞(MSC)由来の細胞外小胞(EV)の治療効果が、MSCのクローン特性に左右されることを示した研究です。著者らは不死化したMSCクローンY201とY202を用い、超遠心でEVを回収し、ナノサイズ解析と超微細形態解析、ウェスタンブロット、質量分析プロテオミクスおよびmiRNAスクリーニングで特徴づけました。機能評価はERK1/2リン酸化、増殖およびT細胞極性化アッセイに加え、炎症性疾患のin vivoモデル2種で実施しています。

    両クローンのEVは形態的には類似でしたが、Y201由来EVはEVバイオマーカー、miRNA、プロテオーム含量が豊富でした。計算解析によりY201 EVのプロテオームにはマトリックス関連タンパク質が有意に富み、RGD配列を持つフィブロネクチンやMFG-E8が多い“EVコロナ”の存在が示唆され、ウェスタンで確認されています。機能的には、Y201 EVのみが関節軟骨細胞の増殖を用量依存的に促進し、その効果は少なくとも一部がRGD(インテグリン)–FAK–ERK1/2経路を介していました。両EVサブセットは活性化T細胞の増殖指数を低下させましたが、炎症性疾患モデルにおける疾患活動性の抑制はY201 EVに限られました。これらの結果は、MSCのクローン性がEVの分子組成と生理活性を規定し、特にマトリックス由来のコロナが作用機序に関与することを示すもので、クローン選択とEV製剤の分子特性評価が臨床開発の鍵となることを示唆します。

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    小児結核性髄膜炎髄液プロテオーム解析

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    今回紹介するのは、小児結核性髄膜炎(TBM)の髄液プロテオームを網羅的に解析し、他の中枢神経感染症と識別するバイオマーカーパネルを探索した研究です。後方視的に104例の髄液を解析し、TBM 7例、化膿性髄膜炎(PM)28例、ウイルス性髄膜炎(VM)20例、クリプトコッカス髄膜炎(CNM)9例、非中枢神経感染コントロール30例、脳疾患コントロール10例を比較しました。

    TBMのプロテオームはPMにより近似しており、TBM髄液では120種のサイトカインおよび受容体が有意に変動していました。経路解析では補体活性化、フィブリン血栓形成、マイクロオートファジーのシグナルが亢進し、コラーゲン分解が抑制されていました。診断的には、TBMとPMの識別にF2とTYMP(AUC=0.874)、TBMとVMにENPP2とWARS1(AUC=0.929)、TBMとクリプトコッカス髄膜炎にF12・APOM・CD163(AUC=0.993)、TBMと非感染コントロールにHLA-BとMGAT1(AUC=0.934)のパネルが有望と示されました。本研究は小児TBMの病態理解に資するプロテオミクス資源を提供し、鑑別診断や治療標的候補の提示に寄与します。なお、質量分析機種やLC条件、Evosepの使用有無は抄録からは不明です。

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    単一細胞質量分析画像化と顕微鏡の統合

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    今回紹介するのは、単一細胞レベルでの空間生物学に向けて、MALDI-MSIと顕微鏡観察を同一試料・同一座標で結びつける新しい手法です。従来は共登録の精度や解像度の不足がボトルネックでしたが、本研究はMALDIイオン化源内での明視野および蛍光顕微鏡観察を組み込み、同一細胞について脂質・代謝プロファイルと形態、さらにはタンパク質発現(蛍光)を同時に扱える(サブ)細胞スケールの解析を可能にしました。LC分離を介さないMALDI-MSIの強みを保ちつつ、顕微鏡像との継ぎ目のない統合で、単一細胞の多層的情報を一枚の空間地図に重ね合わせる設計が特徴です。

    応用例として、培養細胞と組織を対象に、貪食過程にあるマクロファージ内の脂質分布を可視化し、また腫瘍浸潤好中球それぞれの微小環境に相関した脂質プロファイルの不均一性を示しています。これにより、形態学的特徴や蛍光指標となるタンパク質発現と、脂質・代謝状態を単一細胞で結び付けて評価でき、細胞生物学における機能的多様性や微小環境依存性を解き明かすための有力なアプローチとなります。

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    法科学プロテオミクスのLCMS応用

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    今回紹介するのは、法科学領域におけるLC-MSベースのプロテオミクス応用を総覧したレビューです。タンパク質は安定で多様な試料に豊富に存在することから、個人識別の高度化や証拠解釈の精度向上に寄与します。本稿は、毛髪・骨・筋肉・血液・指紋などのヒト試料を対象に、民族・性別・生物学的年齢の推定、体液・組織のバイオマーカー同定、さらには死後経過時間(PMI)の推定まで、LC-MSを核としたタンデムMSやトップダウン/ミドルダウン/ボトムアップ解析の活用例を整理しています。また、違法ペプチド・タンパク質・ホルモンの検出によるアンチドーピング分野での有用性も強調されています。

    一方で、PMI推定は依然として議論が多く、手法改良が求められる課題と位置づけられます。著者らは、感度・特異性を高める質量分析アプローチとバイオマーカー駆動の分析戦略を俯瞰しつつ、再現性と法廷での受容性を確保するための検証・標準化の必要性を明確化。現状の方法論とヒト試料ベースの応用、今後の展望を包括的にまとめ、法科学捜査と研究者によるプロテオミクスの堅牢な導入を後押しする内容になっています。

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    胃癌唾液プロテオミクス生体指標探索

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    今回紹介するのは、唾液プロテオミクスを用いて胃がん(GC)の非侵襲バイオマーカーを探索した研究です。GC患者2群(n=12、n=13)と健常対照(n=11)の唾液を対象に、iTRAQによる網羅的定量解析を実施し、GO/KEGG解析やPPIネットワークで機能注釈を行いました。候補タンパク質は並列反応モニタリング(PRM)で検証し、予後との関連はKaplan–Meier生存解析で評価しています。

    解析の結果、ユニークペプチドを持つ671種のタンパク質を同定し、対照比で各GC群でそれぞれ124種、102種の有意な発現変動タンパク質(DEPs)を検出、両群に共通する56種(上昇24、低下32)を抽出しました。機能的な濃縮解析とPRM検証からS100A8、S100A9、CST4、CST5の4種が一貫して差異を示し、特にCST4とCST5は唾液で低下する一方、GC組織や血液では上昇している点が示されました。これらの所見は、唾液由来のS100A8/S100A9/CST4/CST5がGC検出の非侵襲バイオマーカー候補となり得ることを示すとともに、唾液・組織・血液間の発現差を照合する重要性を強調しています。

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